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「で?なんでやってないの?」
「二見(ふたみ)さんサイテー」
容姿を裏切る下世話な言い方に、煙草の煙を吹きかけて抗議する。嫌煙家は心から不快そうに顔をしかめて、紫煙を払った。
「だって合鍵もらったんでしょ?中にチョコとか入ってるやつじゃないんでしょ?」
「チョコって……」
大して吸っていない煙草を灰皿に押しつけて、ビールを一口呑む。乾の態度を素っ気ないと思ったのかもしれない、全体的に色素の薄い西洋人形みたいな男が華奢な首をちょこんと傾げた。
「やりかた、教えてあげよっか?」
「またそういうことを……いい歳なんだから、そんなポーズ可愛くないよ」
答えながら、向かって右側に傾斜した顔に手を伸ばして、くい、角度を直す。直された二見は、額にかかる癖っ毛を払いながら愉快そうに笑った。
「どきっとしたね、今」
「してません」
「うそ。俺こんなに可愛いのに」
「初対面なら通じるけどね、何年付き合ってると思ってんの」
「なまいき、ユーヒくんのくせに」
甘い美貌と愛嬌の両方を併せ持つこの男は、トップクラスの営業マンだ。兼任で営業職に就いていた技術屋の自分と違い、生粋の営業マン達にとって、彼の努力に拠るところのない資質というやつは妬ましいものだろう。二見は三分の一ほどビールを呷って、結露に濡れた手をワイシャツで拭う。
「真面目な話さ……もしかして、ほんとは、こだわってる?」
モツ煮込み、冷やしトマト、モツ煮込み、迷い箸を繰り返して、結局箸先に付いたモツ煮込みのスープを舐め取りながら、乾はひたむきな目を見返した。
「……なにに?」
「男と付き合ってたってことに。付き合ってたっていうか、彼も、俺とおんなじでしょ?」
「あー、たぶん。でもそうじゃないよ、全然」
「……じゃ、なに」
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