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 肉を切り裂き骨を断つ感触は、この手にまだはっきりと残っている。  存外簡単で……しかし、いやなものだった。  鮮血は、辺り一面を紅に染め上げた。  大地も、散り敷く花弁も、空までも――  そして何より、己の手が真っ赤に染まって弥之介は、ふと気が遠くなりかけた。  だが、状況は一刻の猶予もならない。  弥之介は、ふらふらと雲を踏むような足取りでその場を離れ、凶器を川へと叩き込む。  これで一つ、けりが付いた。  ついでに己もそこから飛び込んで、本当の意味でけりを付けてしまおうかとも考えた。  手が、震えるのだ。  刀を持つ手がぶるぶると震えて、握っていることさえ難しく、とてもじゃないが腹を切るどころの話では無い。  しかし、多少は水練の心得もあるのだから、水に飛び込んだくらいで死ねる気はしなかった。  ……なんだか、目眩がする。気持ちが悪い。  ああ……目の前が、真っ赤だ――  怖くて、悲しくて――息が、 苦しい……  弥之介は、ただ足に任せてずんずんと歩き続ける。  こんなことが確か、以前にもあった……ような気がする。  そう――  当ても無いまま小さな弥之介は、立ち止まりもせず、振り返りもせず、泣き出しそうになるのを堪えながら、ただひたすらに歩き続けていた。
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