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三
破れ寺の埃っぽく冷たい床に横たわり、弥之介は、ぼんやりと己の手を眺めた。
道場にいたなら――
朝から、こんなにぼんやりとしているなどということは、あり得ない。
朝は、忙しい。
水を汲んで、薪を割って、飯を炊いて――
道場を拭き清めて、いつ朝稽古の連中がやってきても良いようにしておいてから、門を開ける。
先生に朝餉の給仕をしているうち、次第に騒々しくなってくるので、ちょっとそわそわして、今日は庄太郎が来るだろうかと、彼の非番の日を思い出してみたりする。
そう。今日は来るはずだ。一体、何と思ったろう――
――それから片付けをして、いつ美穂さんが起きだしてきてもいいように膳を整え、握り飯を沢山作って、腹を減らした朝稽古の門弟達に振る舞って――俺も、大概それを一緒に食って朝飯を済ませる。
そういえば、昨日の晩飯も食っていない。
色々なことがありすぎたせいか、体を全然動かしていないせいか、まるで空腹を覚えていなかった。
しかし……先生と美穂さんは、飯をどうなさっただろうか――
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