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 破れ寺の埃っぽく冷たい床に横たわり、弥之介は、ぼんやりと己の手を眺めた。  道場にいたなら――  朝から、こんなにぼんやりとしているなどということは、あり得ない。  朝は、忙しい。  水を汲んで、薪を割って、飯を炊いて――  道場を拭き清めて、いつ朝稽古の連中がやってきても良いようにしておいてから、門を開ける。  先生に朝餉の給仕をしているうち、次第に騒々しくなってくるので、ちょっとそわそわして、今日は庄太郎が来るだろうかと、彼の非番の日を思い出してみたりする。  そう。今日は来るはずだ。一体、何と思ったろう――  ――それから片付けをして、いつ美穂さんが起きだしてきてもいいように膳を整え、握り飯を沢山作って、腹を減らした朝稽古の門弟達に振る舞って――俺も、大概それを一緒に食って朝飯を済ませる。  そういえば、昨日の晩飯も食っていない。  色々なことがありすぎたせいか、体を全然動かしていないせいか、まるで空腹を覚えていなかった。  しかし……先生と美穂さんは、飯をどうなさっただろうか――
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