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そこが家だと思ったことは無い。家族は、いない。
でも、それでも――
帰る場所は、他に無かった。
そこを出てきたのは己の意思だ。他に、手立てが思いつかなかったのだ。
こんなことになったのも、結局のところ自分のせいなのだろうから、自分が何とかしなければならない。勝手に出奔して破門になった者のしたことならば、己一人のことで片が付けられるだろう。
本来ならば、こんなところで未だまごまごしている予定では無かった。
己の精神が、こんなにも脆弱だとは、これまで思ってもいなかった。
手が、震えるのだ。
作法を気にしなければ、最も手軽に自決する術は頸の血脈を断つことだが、それすら――いや、刀を握ってさえいられぬほどに、ぶるぶると震えるのだ。
赤、赤、赤―――
世の中の全てが、赤かった。
溢れ出す鮮血と、鉄臭い生血のにおい。朱に染まった小さな手。
手が、震える。
剣が、持てない。
……これはもう、死んでいるのと同じじゃないか?
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