2/2
前へ
/19ページ
次へ
 そこが家だと思ったことは無い。家族は、いない。  でも、それでも――  帰る場所は、他に無かった。  そこを出てきたのは己の意思だ。他に、手立てが思いつかなかったのだ。  こんなことになったのも、結局のところ自分のせいなのだろうから、自分が何とかしなければならない。勝手に出奔して破門になった者のしたことならば、己一人のことで片が付けられるだろう。  本来ならば、こんなところで未だまごまごしている予定では無かった。  己の精神が、こんなにも脆弱だとは、これまで思ってもいなかった。  手が、震えるのだ。  作法を気にしなければ、最も手軽に自決する術は頸の血脈を断つことだが、それすら――いや、刀を握ってさえいられぬほどに、ぶるぶると震えるのだ。  赤、赤、赤―――  世の中の全てが、赤かった。  溢れ出す鮮血と、鉄臭い生血のにおい。朱に染まった小さな手。  手が、震える。  剣が、持てない。  ……これはもう、死んでいるのと同じじゃないか?
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加