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 遺骸を運んだ関口家の中間を突き止めるのに、さして時間は掛からなかった。  口は固かったが、同じ道場の者であるから凡その事情は承知していると安心させ、酒を飲ませ小遣いを与え、関口殿を害した者が未だのうのうと逃げおおせているのは怪しからぬと憤慨して見せると口がほぐれた。  袈裟懸けに一太刀。肩の骨がほとんど断ち切られ、止めに心の臟を貫かれていたという。  全く弥之介らしくはない。  弥之介の剣は、そのような剛剣の類では無いし、長身の関口に対して小兵である弥之介が、大上段からの袈裟がけなどとは考え難い。むろん弥之介ならば関口ごとき、如何様に料理することも可能だろうが、心の臓に止めを刺すというのも、心得のある者の仕業とも思えぬお粗末さだ。  しかし――  匂い袋を買ったのは、弥之介だった。  なんでも、人気役者が実際に使っているという特別な調合の香を、いちいちその役者の紋が入った錦の小袋に詰めたものだとかで、連日行列が出来るほどの代物らしく、女ばかりの行列に、若くていい男の侍が物慣れない風情で並んでいたというので、覚えている者が多くいた。  あの弥之介が、一体どんな顔をしてそんなものを買ったのか、想像も出来ない。  関口については、調べれば調べるほど良くない噂が多かった。  傾きかけた道場を、娘もろとも金で買い取ったのだとか、実は他に子までなした女がいたのだとかいった、俗で下衆な話ばかりだ。  だが、それも弥之介を擁護する材料にはならないだろう。むしろ、そんな話を一途な弥之介が耳にしたなら果たしてどうか……
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