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オレンジ色に輝く坂道を自転車で駆け上る。この辺一帯は昔山だったんだと、思い出したように母はよく話していた。
俺がこの町へやってきたのは2歳の時だ。県内での引っ越しだった。父方の両親の土地がまだまだ余っているからということで、誘われるまま家を建てたらしい。
俺が越してきたばかりの頃は、ここは本当に田舎町といった風景だった。竹林がそこら中にたくさんあって、ちっこい身体でタケノコ探しに行ったのをよく覚えている。泥だらけになっては母親に怒られ、それでもタケノコ探しは諦められなくて、何度も何度も繰り返し山に登っていた。
ここが変化し出したのは小学校に入ってからだった。近くに大きなスーパーができて、少しずつ山は削られていった。それでも少し坂を下れば一面の田園風景が広がっていたりした。今はもう高層ビルやマンションになってしまっているけれど、その風景の中をゴン太はよく散歩していた。
「ねえ、どこ行くの?」
先ほどから、美緒はそればかりを聞いてくる。
前方へしかと向ける視線。にやにやとした笑みが止まらない。別に、美緒をいじめるのが楽しくてにやにやしているわけじゃない。さっき。美緒が口にしたその言葉が、俺の表情をこうもだらしなくさせるのだ。
自転車の籠の中に入っている、美緒から渡された紙袋。こそっと中身を見たらケーキだった。しかもホールで、むちゃくちゃおいしそうだ。
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