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――隆太郎のために作ったから。
あのとき、美緒は確かにそう言った。
俺のためだけに作ってくれるなんて。バレンタインでもそんなことはない。
美緒はいつも紙袋いっぱいに手作りチョコを詰めて持っていくのだ。友チョコ、というらしいが、それを女子同士で交換し合うらしい。俺が美緒からもらうチョコは彼女がそれとは別に作った違うものだけれど、それでも、やっぱり俺だけのためにという言葉は貴重だ。
あれは中3のときだった。バレンタインの前日、俺はある光景を見てしまった。
たまたまだった。部活の休憩中、汗のかいた顔をタオルで拭こうとしたら、それを教室に置いてきたことに気が付いた。顧問の教師に許可を取って、急いで教室に向かった俺は、辿り着いた目的地から話し声が聞こえて、ドアの側で立ち止まってしまった。
美緒の声。そして、あの飯嶋の声だった。
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