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「そっちでも、親父に会えるんだろ?・・・・・・知ってもしょうがないか。なるようにしかならんもんね。」
網戸を通して庭先からコオロギの鳴き声が入ってくる。
「もう、秋なんかな・・・さっきまで、皆で釣りに行っていたよ。いつも親父と行っていた場所でキス釣り。」
「みんな結構釣ったよ。俺は坊主、理由はわかるよね?
でも、いつも親父はあんな風に俺たち兄弟を見てたんだなってよくわかった。」
相変わらず、うちわを動かし続ける親父。
「嬉しそうだったよ、魚を釣ったあいつら。俺も思い出した。親父と行って魚釣った時のうれしさ。」
それから少し間を置いて呟くように私は話した。
「すぐ近くに、いつでも行ける所にこんなに楽しい所が、楽しい事があったんだね。・・・・・・死んでから気づいた。」
私は微笑みながらビールを飲んだ。
「・・・明日までなんだろ?こっちにいられるの。親父も俺も。」
やっぱり答えのない親父としばらく庭を見つめていた。
沈黙に気まずさはなかった。
ほんの数分程度だが静かな時間を親父と過ごした。
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