Chapter1 初恋の人

31/44
前へ
/103ページ
次へ
「俺?俺は……」 ああ、確かにこの声は、間違いなく鈴木くんだ…。 いやだ、聞きたくない。 鈴木くんがいいと思う女子の名前なんて、全然聞きたくないよ。 わたしは、この間の「俺、奈々ちゃんが……」の言葉の続きを、もう少し夢見ていたい。 真実なんて、他の子の名前なんて、本当に聞きたくない。 聞いてしまう前にこの場から立ち去ろうと、慌てて踵を返そうとした所で、 「……俺は、奈々ちゃんがいい」 鈴木くんがそう言ったから、わたしはその場でフリーズした。 聞き違い?ううん、確かに今「奈々ちゃん」って言った。 うちのクラスに「奈々」はわたししかいない。 「奈々ちゃん?いたっけそんな名前」 「田崎さん。田崎奈々だよ」 田崎奈々。 どうしよう、やっぱりわたしの名前だ。 鈴木くんが、わたしのことを可愛いって思ってくれてるなんて。 どうしよう、嬉しいけど、どうしよう! 「……ねえ、鈴木くんが言ったの、奈々ちゃんだったよね?」 有希ちゃんが小声で言った。 「う、うん……そうみたい」 「……奈々ちゃんのこと、好きってことかなあ?」 「……わ、わかんないよそんなの……」 男子達の話は続く。 「あー田崎さん。地味だけどよく見ると可愛いよな」 「確かに。美少女だよな。でもオレ話したことないわ。てか湊も田崎さんと話さなくない?」 「あー、話しかけようとすると、すげー緊張するんだよね」 「なにそれ、ガチで好きじゃん。告んないの?」 「あはは。いや、ほら俺、もう転校するじゃん?」 ……え? 今、なんて言った? 転校する?誰が?鈴木くんが?
/103ページ

最初のコメントを投稿しよう!

333人が本棚に入れています
本棚に追加