Chapter1 初恋の人

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◆◆◆ 初めて連絡をもらったあの日以来、メッセージのやり取りは少しずつ頻度が増えていった。 そして2週間も経つ頃には、毎日するのがすっかり当たり前になった。 最初は勿論、互いの近況報告をし合ったけれど、今は他愛ない話ばかりしている。 今お昼ごはんとか、これからバイトとか、大学や友達の話とか。 話すのは現在のことばかりで、あの当時の、中学2年の頃の思い出を、2人で話して懐かしんだりはしない。 わたし達はあの時確かに同じクラスだったけれど、教室ではほぼ話さなかったから、共有した思い出は実はとても少ない。 かと言って、あの音楽室のピアノの前で一緒に過ごした時間について話すのは、なんとなく恥ずかしかったのだ。 『奈々ちゃんおはよ』 いつも朝の9時前くらいに、鈴木くんからメッセージが届く。 たまにわたしから送ることもあるけれど、だいたい鈴木くんが先に送ってくれる。 「おはよー」 『今日は学校?』 「うん。3限からだけど。鈴木くんは?」 『俺実はもう授業中。ちょー眠い』 鈴木くんも、わたしと同じく大学生だ。 「わたし授業中いっつも寝ちゃう」 『俺も気を抜くとだいたい落ちてるよ』 今日もいつも通り、他愛ないやり取りをする。 なんでもない会話、でも楽しくて仕方ない。 「あ、わたしそろそろシャワー浴びるね」 『了解。またあとでね』 「うん、寝落ちしないように頑張ってね」 今のわたし達のやり取りは、まるで気のおけない友達のようで、ともすれば恋人のようでもある。 わたし達の距離は、6年前よりもずっと近い。 もしあの頃、今くらい近い距離でいられたら、あの言葉の続きを聞けたのだろうか。 ◆◆◆
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