Chapter1 初恋の人

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◇◇◇ 今日から7月、そして今日から期末テストが始まった。 勉強は好きではないけれど、苦手ではない。 人と、特に男子とうまくコミュニケーションを取ることに比べたら、学校の勉強の方がよっぽど簡単だ。 わたしは小1の頃、クラスの男の子にからかわれた経験があって、それ以来男子が少し苦手だ。 だから初恋も、中2になってやっと。 遅いという自覚があるのは、他の女の子達は小学校の頃から、「○○くんが好き」という話でよく盛り上がっていたからだ。 わたしは男子と接するのをできるだけ避けていたから、誰かを好きになるなんてことは起こるはずもなかった。 テストの時間を10分残した所で、答案用紙をすっかり埋め終えたわたしは、教室に引いた対角線の端と端、一番遠い最前列の席に目をやる。 他の人の体に重なってしまって、鈴木くんの背中は殆ど見えない。 でも誰かが動いたりした瞬間に、ちらっと髪や肩が見えたりする。 それだけで、胸がきゅうっとなった。 わたしの視界に彼がいる、それだけで幸せ。 恋をすると、こんなに世界が色づいて見えるなんて知らなかった。 今の気分を曲に例えるなら、リストの「愛の夢」だろうか。
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