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演奏を終えたと同時に、パチパチパチと拍手の音がした。
「えっ…………いつの間に?」
鈴木くんがピアノのすぐ近くの机に、ちょこんと腰かけていたのだ。
演奏に夢中で、全く気づかなかった。
「奈々ちゃんって、こんな激しい弾き方もできるんだね」
「この曲ね、わたしにはちょっと難しいから、勢いでぱーって弾いちゃってるの」
「全然ミスなかったけど?完璧でしたよ」
鈴木くんはそう言って、机からぴょんと降りた。
「奈々ちゃんってピアノ何年習ってるの?」
「えっと……実はわたし、習ったことないの」
「え?まじで言ってるのそれ」
鈴木くんは目を丸くした。
「家にピアノがあるだけ。だからすごい下手くそなの。楽譜もあんまり読めないし」
「いや、全然下手じゃないし!それに、楽譜読めないのに弾けるって、耳コピってことでしょ?え、今の悲愴も?」
「う、うん。少し楽譜も見たけど……」
「すごい才能だよそれ」
「そ、そうなのかな」
誉められているんだろうけれど、自分ではあまりピンと来ない。
「うん!ほんと羨ましい。俺なんて才能ないから、ガキの頃、死ぬほど練習させられたもん」
「鈴木くん、子供の頃から習ってるの?」
「うん、3才から。でも、兄貴の方が昔からうまくて…………あ」
「鈴木くん、お兄さんがいるんだ?」
「……あーうん。でも、この話は終わり!」
鈴木くんは、なぜかお兄さんの話をやめて、代わりに、
「あ、俺もなんか弾こうかなー」
にっこり笑ってそう言った。
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