Chapter1 初恋の人

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お兄さんの話、どうしてやめちゃったんだろう。 お兄さんに対して、なにかコンプレックスでもあるのだろうか? いつか、そういうのも話してくれるような仲になれればいいのに。 「よし、じゃあ今日は、この曲を奈々ちゃんにプレゼントするね」 わたしが退いた椅子に腰かけると、鈴木くんは横に立ったわたしに笑みを向けた。 そして彼は、ショパンの「革命のエチュード」をプレゼントしてくれた。 とても速い曲なのに、ものすごく滑らかに指を滑らす。 高速で奏でているはずなのに、1音1音はとても綺麗で深い。 だから、その速さや激しさを忘れるほど、主旋律の美しさが際立って聴こえた。 弾いたことないし、こんな難しい曲は弾ける気もしないけれど、もしわたしが弾いたら、この曲は革命ではなく破壊になるだろう。 これ以上ない完璧な演奏だった。 才能がないなんて、あり得ない。 お世辞抜きに、本当に素晴らしかった。 弾き終えた鈴木くんは、「1ヶ所ミスっちゃった」と舌を出して照れたように笑った。 「ううん、ほんとにすごかった。聴いてて鳥肌立っちゃった」 わたしが言うと、鈴木くんはすっと椅子から立ち上がった。 「ありがと」 彼はふにゃりと笑って、それから、わたしの頭をくしゃっと撫でた。 「えっ」 わたしの心臓が、革命のエチュードよりももっと激しく、バクバクと音を鳴らし始めた。 「あのさ、俺、奈々ちゃんが………」 「……な、なに?」 じっと見つめられて、心臓が止まりそうだ。 けれど、 「…………ううん、なんでもない。俺今日は帰るね」 鈴木くんは少し赤い顔でそう言って、「またね」と手を振ると、足早に音楽室を出て行った。 俺、奈々ちゃんが……何?! この言葉の続き、わたしは期待してしまっていい? 早鐘みたいな胸の鼓動は、全然治まらなかった。 ◇◇◇
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