Chapter1 初恋の人

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2時間くらいして、母が「そろそろ帰ろうか」と言ったので、わたしは祖母に「さくらさん、またね」と挨拶をした。 この瞬間が一番嫌いだ。 だって、祖母が泣くから。 わたしのことも母のこともわからないのに、帰ってしまうのが淋しいのか、いつも微笑んだまま涙を流すのだ。 ここに来ると、別れが切なくて、忘れられてしまったのが淋しくて、祖母に迫った死が怖くて、いつも胸が苦しくなる。 わたしはおばあちゃん子だった。 だから、「さくらさん」に会うのは辛い。 夜、部屋でのんびりテレビを観ていたら、スマホの通知音がした。 『ごめん、バイトだった』 鈴木くんからだった。 老人ホームから帰ってきて、なんだかやりきれない気持ちだったわたしは、夕方彼に「ちょっと話したいな」というメッセージを送ったのだ。 「いえいえ、お疲れさま」 『おばあちゃん、元気だった?』 老人ホームに行くことは、午前中に報告済みだ。 「うん。またさらに痩せて小さくなってたけど」 『そっか。会うの辛い?』 「うん。会いたくないわけじゃないけど」 『でも、会えるうちに会った方がいいよ』 鈴木くんは、母と同じことを言った。 「そうだよね、わかってるけど」 『偉そうなこと言ってごめんね。でも』 「でも」のあと、次のメッセージまで少しだけ間が空いた。 『俺つい最近、身内を亡くしたばっかだから』
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