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2時間くらいして、母が「そろそろ帰ろうか」と言ったので、わたしは祖母に「さくらさん、またね」と挨拶をした。
この瞬間が一番嫌いだ。
だって、祖母が泣くから。
わたしのことも母のこともわからないのに、帰ってしまうのが淋しいのか、いつも微笑んだまま涙を流すのだ。
ここに来ると、別れが切なくて、忘れられてしまったのが淋しくて、祖母に迫った死が怖くて、いつも胸が苦しくなる。
わたしはおばあちゃん子だった。
だから、「さくらさん」に会うのは辛い。
夜、部屋でのんびりテレビを観ていたら、スマホの通知音がした。
『ごめん、バイトだった』
鈴木くんからだった。
老人ホームから帰ってきて、なんだかやりきれない気持ちだったわたしは、夕方彼に「ちょっと話したいな」というメッセージを送ったのだ。
「いえいえ、お疲れさま」
『おばあちゃん、元気だった?』
老人ホームに行くことは、午前中に報告済みだ。
「うん。またさらに痩せて小さくなってたけど」
『そっか。会うの辛い?』
「うん。会いたくないわけじゃないけど」
『でも、会えるうちに会った方がいいよ』
鈴木くんは、母と同じことを言った。
「そうだよね、わかってるけど」
『偉そうなこと言ってごめんね。でも』
「でも」のあと、次のメッセージまで少しだけ間が空いた。
『俺つい最近、身内を亡くしたばっかだから』
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