Chapter1 初恋の人

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「俺?俺は……」 ああ、確かにこの声は、間違いなく鈴木くんだ…。 いやだ、聞きたくない。 鈴木くんがいいと思う女子の名前なんて、全然聞きたくないよ。 わたしは、この間の「俺、奈々ちゃんが……」の言葉の続きを、もう少し夢見ていたい。 真実なんて、他の子の名前なんて、本当に聞きたくない。 聞いてしまう前にこの場から立ち去ろうと、慌てて踵を返そうとした所で、 「……俺は、奈々ちゃんがいい」 鈴木くんがそう言ったから、わたしはその場でフリーズした。 聞き違い?ううん、確かに今「奈々ちゃん」って言った。 うちのクラスに「奈々」はわたししかいない。 「奈々ちゃん?いたっけそんな名前」 「田崎さん。田崎奈々だよ」 田崎奈々。 どうしよう、やっぱりわたしの名前だ。 鈴木くんが、わたしのことを可愛いって思ってくれてるなんて。 どうしよう、嬉しいけど、どうしよう! 「……ねえ、鈴木くんが言ったの、奈々ちゃんだったよね?」 有希ちゃんが小声で言った。 「う、うん……そうみたい」 「……奈々ちゃんのこと、好きってことかなあ?」 「……わ、わかんないよそんなの……」 男子達の話は続く。 「あー田崎さん。地味だけどよく見ると可愛いよな」 「確かに。美少女だよな。でもオレ話したことないわ。てか湊も田崎さんと話さなくない?」 「あー、話しかけようとすると、すげー緊張するんだよね」 「なにそれ、ガチで好きじゃん。告んないの?」 「あはは。いや、ほら俺、もう転校するじゃん?」 ……え? 今、なんて言った? 転校する?誰が?鈴木くんが?
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