1人が本棚に入れています
本棚に追加
村から少し離れた森を進んでいくと見えてくる。ダムのそばにある短いトンネル。
そこには不思議な噂がある。
その日は算数のテストの点が悪くて、かなり落ち込んでいた。帰って親に見せたらどんな顔で怒鳴るだろう。
親の般若顔を見るのが怖くて、ぶらぶらとあてもなく遠回りをしていたら何故か例のトンネルの道に出た。あれ、トンネルに抜ける道通ったっけ。
暗く湿ったトンネルから、生ぬるい風が吹いてくる。昼間なのに鬱蒼と生える木々のせいか中はとても暗く、そんなに長いトンネルでもないのに向こう側おろか何にも見えない。のっぺりとした闇で覆われているような感じだ。
不気味だな、と感じると同時に何故かあの暗闇の中に妙なものを感じた。なにか、居る。気配を感じる。
ぞわぞわと背中を駆け巡る冷気より早く、トンネルの中に居る何かが、僕の体を絡め取ってそのまま濃い闇の中に
ダムの近くのあのトンネルね、昔あそこで死んだ人がいるんだって。家に帰りたくない人を待って居るらしいよ。あそこあんまり人通りないでしょ?
だから寂しくて、たまに通った人を攫って何処かに連れて行っちゃうんだってよ。
夕暮れ時、トンネルの前に何故か落ちていた算数のテスト用紙が虚しく風に吹かれていった。
最初のコメントを投稿しよう!