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<0.プロローグ>恍惚な月光
――時には、等身大の物語を。
日々の雑踏の中で、いつの間にか忘れてしまった青い春。それを思い出させてくれたのは、あなたでした。
◇◆◇◆
カチ、カチ、カチ、カチ……
時計の針の音だけが聞こえる、午前2時。
そこには、何もない。
――青ざめた少女の顔と、乱雑に散らかった物以外は。
少女は、ふと窓を見上げた。
窓の外には、怪しい明かりを灯す恍惚な月と、闇夜にまばゆい光をばら撒く星々だけが浮かんでいる。
月明かりの下で、2匹の蝶がじゃれ合いながら踊っている。
光のない少女の目は、その蝶達の異変を捉えた。
一方は、その瞬間の喜劇に身を任せていた。――明日のことは知らぬとでもいうように。
しかしもう一方は、戯曲のエンド・ロールに苦悩していた。――悲劇を案ずるように。
誰も知らない。――眠っていた世界が再び動き出した後の、蝶達の行方を。
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