<0.プロローグ>恍惚な月光

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ

<0.プロローグ>恍惚な月光

――時には、等身大の物語を。 日々の雑踏の中で、いつの間にか忘れてしまった青い春。それを思い出させてくれたのは、あなたでした。 ◇◆◇◆ カチ、カチ、カチ、カチ…… 時計の針の音だけが聞こえる、午前2時。 そこには、何もない。 ――青ざめた少女の顔と、乱雑に散らかった物以外は。 少女は、ふと窓を見上げた。 窓の外には、怪しい明かりを灯す恍惚(こうこつ)な月と、闇夜にまばゆい光をばら撒く星々だけが浮かんでいる。 月明かりの(もと)で、2匹の蝶がじゃれ合いながら踊っている。 光のない少女の目は、その蝶達の異変を捉えた。 一方は、その瞬間の喜劇に身を任せていた。――明日のことは知らぬとでもいうように。 しかしもう一方は、戯曲のエンド・ロールに苦悩していた。――悲劇を案ずるように。 誰も知らない。――眠っていた世界が再び動き出した後の、蝶達の行方を。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!