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「おかぁさぁん! おーそーいっ」
おかめお面の少年が、坂の上で力いっぱい叫んでいる。その頭の上を、薄紅の花弁がひらひら、ひらひらと後から後から舞い落ちている。
私たちはもう桜に祝福されたものね、と、眩しそうに少年と桜を見る夫に語りかけた。
「……そうだったなぁ」
今頃になって気もそぞろになってしまった夫の手から、空になった弁当箱を奪い取って。
相変わらず料理の苦手な私は、大切な二人のために、またすぐにやってくる今晩の夕飯を、苦心して考えることにした。
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