父の日は泡と消え

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 今日は父の日なんですよ、課長。  と、川上(かわかみ)成司(せいじ)は言いたかった。電話の向こうから休日出勤を命じてきた課長に。 「……わかりました」  言いたかった言葉を泣く泣く飲み込み、そう応えた。社長以下重役たちも出席する明日の会議に、担当する仕事の資料が急遽必要になったと言われれば、平社員の成司には断りようがなかった。  ――じゃあ、急なことで悪いがよろしく頼むな、川上。  課長はそう言って、電話を切った。  成司は耳に当てていたスマホを目の前に持ってくる。飲み込んだ言葉が喉まで戻って来て、それをどうしても声にしたくてならなくなった。 「今日は父の日なんですよ、課長」  ため息が続いた。
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