父の日は泡と消え

3/19
前へ
/19ページ
次へ
 ◇  成司は、掛け時計へと目をやった。  休日出勤の、たった一人しかいない会社のオフィスで、何度そうしたことか。  天井の照明は成司の頭上のものしか点いていない。節電だ。おかげで目を向けた掛け時計に届く光はおこぼれ程度。その微かな光を頼りに短針と長針の位置に目を凝らすと、 「七時」  その時刻だった。  成司はため息をついた。その息が(せわ)しく動き続けるコピー機にかかる。  午後七時と言えば、通常の勤務でも退社できる定時を越えた時刻。労働時間にうるさい昨今、定時に帰れる日もこの頃は以前より増えてきたと言うのに、 「どうして今日にかぎって、俺はまだ帰れないんだよ」  今日は休日なのに。父の日なのに。  成司はまたため息をついた。コピー機はそんなことなどお構いなしに、成司に命じられたルーチンワークをこなしている。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加