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夜9時半、私達は、いつものように手をつないで、暗い夜道を歩いている。
端から見たら、きっと普通の恋人。
まさか私達がW不倫カップルだなんて、誰も思いもしないんだろう。
「ねえ、私ってさあ」
「ん?」
「悠貴くんの何?」
肩書きなんて本当はどうでもいいけれど、話の種に訊いてみた。
「セフレ?」
「違うよ」
「じゃあ、愛人?」
愛人という響きが、あまりにも自分に似合わなくて、私は少し笑いながら訊いた。
「はは、違うんじゃない?」
「んー。じゃあ、何?」
「彼女でしょ?」
悠貴くんは真顔で言った。
「私、悠貴くんの彼女なの?」
なんだか釈然としなくて、私は首を傾げた。
「でも、悠貴くん、彼女いるよね」
「あー、そういえば、そうだったね」
悠貴くんは、淡々とした口調で言った。
「そういえばって……」
「んー、だって最近、全然会ってないから」
口からこぼれそうになった「なんで?」という疑問を、私は辛うじて飲み込んだ。
答えなんて、いらない。
もう一度言葉にされたら、きっと、心まで持っていかれてしまう。
「へえ、そうなんだ」
代わりに、大して興味なさそうな相槌を打った。
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