前説 : 強引すぎるスカウト

2/14
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/58ページ
午後二時二十三分。 この時間、この街のコンビニに現れる客はそう多くない。ただでさえ駅前のコンビニに客を取られている現状に加えて、コンビニ周辺の人間が授業やら仕事を再開させる時間帯だからだ。 それなのに俺の目の前では同じ高校の制服を着た男がじっと俺の顔を見ている。 コンビニの店員をしているのだから、客にジロジロと見られる事をとやかく言うつもりはない。ましてや自分の高校の近くで働いているなら「あれ、この店員さんの顔、どこかで…?」と同じ高校の人間に二度見される事もよくある事だ。 しかし、この客はおかしい。絶対的自信を持って言える。おかしい。かれこれ十五分もレジ越しに俺の顔を見つめているのだ。気味が悪いとしか言えない。その距離は約2メートル。会計をしたいのかそうでないのかジャッジするには微妙な距離。手に商品を持っているわけでもない。さすがに笑顔を維持するにも、表情筋が限界なので店長には悪いが少しレジを空けようと思う。心配しないでください、店長、もしレジの金が消えるようなことがあれば俺はきちんとこの怪しい客の存在を証言しますから。足を後ろに引いたその瞬間、その男が口を開いた。 「君さ、停学中じゃないの?」 思ったより高い声に少し驚いた。さっきまで視線の先から目を逸らしていたため、顔もぼんやりとしか認識していなかったが、その男は随分と中性的な見た目をしていた。 「ねぇ、聞いてる?君、停学中の子でしょ?こんなとこで働いてていいの?」 「え、あぁ、別に…。てか、お前には関係ないだろ。」 「先輩に敬語も使えないわけ?」 「先輩?」 「俺は3年生だもん。ほら、ネクタイも緑でしょ。」 えっへんと発してもない声が聞こえそうなくらいのドヤ顔だ。しかし悪いのは自分だ。あまりに幼い顔だったから、先入観で後輩だと決めつけていた。 「…すいません。でも、先輩には関係ないことですよね。」 「いや、とってもある。」 「なんでですか。」 「だって君が殴ったの、俺のー…お友達?だったからさ」 「へぇ、じゃあ、お友達の仇でも打ちにきたんですか?」 「仇打ちって、いつの時代?」 嘲笑うような顔が少しムカついた。先輩だし、客だし、何より初対面だ。普段ならもっと猫を被って対応する。しかしどうしたものか、こいつの表情はどうしても鼻に付くのだ。 「じゃあ何ですか。言っときますけど、俺謝ったりしませんから。」
/58ページ

最初のコメントを投稿しよう!