前説 : 強引すぎるスカウト

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停学処分を受けたのは2日前だ。 偏差値が高くも低くもない、いわゆる普通の公立高校。適当に授業を受けて、放課後は友達とマックに行ったりする事もある。そんな平凡に見える俺も、実は苦労人だったりする。 二年前に俺と弟を男手一つで育ててくれた父が亡くなった。今は父方の祖母と、弟と、三人で生活している。父の遺した貯金や、祖母の年金があるとはいえ、生活がカツカツなのは事実だった。だからこうしてバイトをして、少しでも生活を潤そうとしているのである。 二日前の放課後も、バイトが入っていた。HRを終えて、バイトの時間まで友達と食堂で駄弁ってた俺が荷物を取りに教室へ戻ると、そこには俺の鞄を漁る一人の男子生徒がいた。 自分の給料が盗まれているかもしれない、そう危惧した俺は咄嗟にそいつの元へ駆け寄って、 「今月の食費ィィィィイ!!!」 と言いながらそいつに殴りかかった。 殆どの生徒が帰り、静まり返った教室で響かせた俺の声は、二階上の職員室まで届いていたらしい。 抑えきれない興奮による荒い息を整えている内に、あれよあれよと教師や生徒達が教室に集まった。 学校でたまに問題になる窃盗犯を自分の手で捕まえたのだ。正直達成感すらあった。鼻高々に窃盗犯を教師陣に差し出そうとすると、その瞬間、窃盗犯が喚きだした。 「こいつが急に殴ってきたんですぅう!!!」 「はぁぁぁああ!?」 「高宮、お前殴ったのか!?」 「え、いや、確かに殴ったけど、それはこいつが俺の鞄を…」 「ほら見てください先生!!口がちょっと切れてるんです!!」 「とりあえず二人とも職員室まで来なさい、他の生徒はもう帰りなさい!」 黒板の上を見ると時計は四時五十分を示していた。まずい、このまま職員室に行ったら五時からのバイトに遅れてしまう。それで減給ともなればここで食費を守った意味がない。そう判断した俺は、教室の窓から逃げることを決めこんだ。話し合いなんて面倒でしかない。そんなのはごめんだ。 開放感と非日常感が相まったからか、気づけば俺は 「あばよー!」と残された面々にルパン顔負けの(ルパン3世を見たことはないが)挨拶をして、軽やかなステップでバイト先へ向かったのだった。
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