前説 : 強引すぎるスカウト

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バイト終わりに、自宅へ帰ると弟から一週間の停学処分だと学校から連絡がきたと聞かされた。 そんな結末を予想だにしてなかった俺はそれはもう納得がいかなかった。 あいつが悪い事をして、それを成敗したのは俺なのに?なぜ?伝言を預かっただけの弟に詰め寄ると 「だって兄ちゃん、そのままバイト行っちゃったんでしょ。そりゃ殴られた方が立場としては優位でしょ」 少し呆れ気味にそう言って、「じゃ、僕もう寝るから。」と部屋に戻ってしまった。なるほど、確かに弁明の余地はない。だって俺は法廷で逃げたのだから。じゃあその分バイトさせてもらうかーと、割と楽観的に考えて、ばあちゃんの部屋におやすみの挨拶に行ったら、めちゃくちゃ叱られた。 「ふーん。それで殴って、電話越しの停学処分報告かー。」 「そうです。だから俺は謝りません。」 「そっか、じゃあ俺からも言っとくね、盗みはダメだよって。」 「そうしてください。ぜひ。これ以上悪をのさばらせておくわけにはいきません。学校の平和のためにも、生徒の健やかな生活なためにも…」 「そんな事よりさあ」 「そんな事!?」 というか、なぜ俺はこの人にこんな話をしているんだ?妙に聞き上手だったから話に没頭してしまっていたが、この人は先輩で、客で、何より初対面だ!!彼は彼でなんでレジで、頬杖をつきながら寛いでるんだ?俺は後輩で、店員で、友人を殴った張本人なんだぞ!? 「君さぁ、うちの劇団入らない?」 「はい?」 唐突すぎる。あまりに唐突すぎる。突拍子も無さすぎて裏返った声は客がいない店全体に響いた。 「うーん、やっぱり響くよね。舞台映えすると思うんだー、君の声。」 「いやいやいや、いきなりすぎますし。第一、俺はバイトもあるから部活とかは…」 「いや部活じゃなくて。俺の劇団に入ろうよ。」 そういやこの人、一人称が"俺"なんだ。似合わねー。って、そうじゃない。 「劇団って…えっと、四季…みたいな?」 「あんな有名な劇団じゃないけどさ、でもその界隈じゃちょっとだけ名が知れてるよ。」 「へぇー…え、なんで俺?」 「声がよく通るからって言ってるじゃん。なんだっけ、ほら、『俺の食費ィィィィイ』だっけ?なかなか緊迫感のある良い声だったね。」 「いや、『今月の食費ィィィィイ』です。それに切迫詰まってたから緊迫感とかあって当然です。てかアレ聞いてたんですか!?」
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