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一週間の停学を終えた。久々の教室に入った瞬間、少しクラスが騒ついた気がした。無理もない。俺は先輩である三年生を殴ってそのまま軽やかなステップで帰ってしまったのだ。どうせこの一週間であることないこと噂されてきたのだろう。それくらいの覚悟は出来てる。気合を入れ直そうと、顔を勢いよく上げたが、そこには予想外というべきか、ある意味予想内というべきか、
「…先輩。ここは二年生の教室ですよ」
「あ、やっときた!停学処分明けなのに来るの遅くない?やる気あるの?」
声色の割にヘラヘラとした表情のまま、うちのクラスの座席表をうちわみたいにして扇いでいる先輩が俺の席に座っていた。その座席表は本来、先生達が使うもので、教卓にあるべきだというのに。
「…高宮、あの御垣先輩と知り合いなの?」
クラスメイトの一人が声をかけてきた。あれ?停学明けなのに思ったより普通だぞ?
「御垣先輩って?」
「いや、ほら、今お前と話してた先輩だよ。有名だろ。」
この先輩、御垣先輩って名前だったのか。あれから先輩は宣言通り毎日、ちょうど俺のシフトの時間にかぶせるようにコンビニに現れた。現れては劇団の勧誘をし、俺は先輩の名前は知らないくせに劇団の内部事情にはだいぶ詳しくなってしまった。
劇団ビッグマウス、このふざけた名前の劇団で先輩は脚本、演出をしているらしい。元々は近くの大学のサークル活動として作られた劇団だったが、内部分裂により五年前に新しく生まれ変わったこと。今は劇団のメンバーは九人いて、中にはモデルとして活動している人もいるけど、ほとんどは学生だということ。そういった事を聞いてもないのにイートイン席で教えてくれた。
「…ひとまず、もうHRも始まりますし、自分の教室に戻ってくれませんか?」
「へー。君、高宮馨くんっていうんだ。難しい漢字だね。」
「聞いてます?お引き取り願いたいんですけど。」
「ねぇ、お願い。馨くん、俺の劇団入って?」
「何度も言いますけど、嫌です。」
「何度も言うよ!!!入って!!」
「嫌です。」
「減るもんじゃないじゃん!!」
「時間も労力も減ります!!!」
そろそろこのイタチごっこみたいなやりとりも疲れてきた。どうしたものか。というか、こんなやりとりを教室にまで持ち込みたくなかった。
「じゃあ見に来るだけ!!ちょっと見学!!ね!?」
「そんな時間ないので!!すいません!!!」
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