気持ちの行方がわからない

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「坂崎君は文句のない男じゃないか」 「好みじゃない」 「実弥!」 父の怒鳴り声にも怯んだりはしない。 「あっちだって私なんか嫌に決まってるでしょ」 「そんなことはない。坂崎君もお前のことを気に入ったそうだ」 「上司の娘を気に入らないなんて言うわけないじゃない」 「本当だ。お前が席を離れていたときに正式に交際したいと言ってきた。たとえ気を遣ったとしてもそこまでは言わないだろう。興味がなければ遠回しに断るのが普通だ」 そうかもしれない。けれど坂崎さんのような人が私に興味を持つとは思えない。 「坂崎さんとは付き合えない」 「いい加減にしなさい!」 「付き合ってる人がいるの!」 父に負けない大声で怒鳴った。 「彼氏がいるの。だから坂崎さんは無理!」 これには黙っていた母までも驚いている。 「いつの間にそんな人が……」 「どんな人なんだ?」 父は運転しながらもバックミラーで私の顔を盗み見ていた。 「真面目な人」 「仕事は何をしているんだ?」 職業は絶対に聞いてくると思っていた。父は人柄よりも仕事や年収や学歴を重視するのだから。 「……警察官」 小さく呟いた声を父は聞き漏らさなかった。 「警察官だと? 役職は何だ? 大学はどこを卒業している?」 これも聞かれると思っていた。私の進路に口を出す父は相手の出身校や役職にだって興味を持つのだ。 「いいでしょそんなことは……」 「いいから言いなさい!」 父に一括されて私も怒りが湧いてくる。 「階級は巡査部長……」 シバケンに教えてもらった役職の名前を思い出しながら渋々答えた。 「巡査部長だと? そんな男とは別れなさい」 「絶対に嫌!!」 怒りが頂点に達した。シバケンを悪く言われて平静でいられるわけがない。家の前に車が到着したタイミングで勢いよく車から降りると一人で先に部屋に入り、2階の自室にこもった。
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