泣いてばかりいる猫ちゃん

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プツリと通話が切れた。その途端涙も出ないほどの虚しさが心を支配した。シバケンの声が聞けても今私の横にシバケンはいてくれない。寂しさでいっぱいになる。 「ふぅ……」 思わずため息をついた。 父に突き放されては私だって意地になる。今はそれほど嫌いではない仕事を手放すのは惜しいけれど、父の力で入った会社を辞めて転職だってしてやる。 けれど準備の時間が足りない。まずは住む家を確保して、転職活動を始めなければ。 自立する覚悟はできたけれどけれど、現実はすぐには自立できないのだ。 ◇◇◇◇◇ 転職するには何から始めたらいいのだろう。きっと面接を受けたりするよりも、先に会社に退職願を提出するのが先だろうか。通勤時間にスマートフォンで求人を検索し、退職願の書き方を調べていた。 部屋の契約はいつにしよう。候補の部屋はまだ私以外に入居を希望する人がいないから待ってもらっている状態だ。会社を辞めるとなると部屋を契約するのも難しくなる。 自立するにはまず自力で新しい仕事を見つけて安定した収入を得られるようにならなければ。道のりは遠く感じる。 定時を既に1時間過ぎた今、フロアを見渡すと総務部の社員の半分が退社している。締め日を過ぎた今日は残業する理由がない。私だって他部署の社員が書類を出し忘れたりしなければ定時で上がれていたのだ。 けれど総務課に異動してから数ヶ月、恐れていたほど雑用の押し付けもなくなった。前任者の北川さんがそうであったように、うまくかわして効率の良い動き方がわかれば面倒だと思うことも少ない。 経理課の頃からさすがに締め日は無理でも普段残業することはあまりなかった。お給料も十分だ。 気づくのが遅すぎたけれど私には良い条件の職場だ。それが自分の力ではなく父に決められた環境であることが悔しい。
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