泣いてばかりいる猫ちゃん

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けれど諦めたら一層寂しさを感じた。一人ぼっちだという事実が胸を締め付ける。「自分の力で生きてみろ」と言った父から逃げてきたのに、一人は嫌だとシバケンに頼ろうとした自分が情けない。 ここ最近の変化は私にとってはかなりの進歩だった。ようやく本気で仕事をし、自分の力で生活してみたいと思うようになってきたのに、会社を辞めろなんて言われるとは思わなかった。会社は私がいなくてもいいなんて、そんなことを父にだけは言われたくなかったのに。 今の私は仕事も、恋愛すら親に干渉される。それが情けなく恥ずかしかった。 きっと私自身や環境はシバケンとは不釣り合いかもしれない。そう思ってしまうことが辛い。 シバケンに会いたいな……。 スマートフォンから着信を知らせる音が鳴る。画面を見るとシバケンからの着信だ。起きて着信に気づいて折り返しかけてきてくれたのだろうと応答した。 「もしもし、ごめん電話出れなくて」 シバケンの声は背景の音に妨害されて聞き取りにくい。どこか外にいるようだ。 「あれ、今家じゃないの?」 「ああ、実はまだ仕事中なんだ。今やっと休憩」 「そうだったんだ……お疲れ様」 そういえば警察関係者は今通り魔事件の捜査で忙しいはず。てっきり家で寝ているのかと思っていた。 「電話してくるなんて何かあった?」 「ううん……声が聞きたくなっただけ」 一瞬の沈黙の後に「それは嬉しいね」と電話の向こうの彼が笑ったのが分かった。 「実弥」 「何?」 「会いたいね」 この言葉に涙が出そうになる。シバケンの声はどこまでも優しくて私を安心させる。 「私も会いたい……」 精一杯の思いを込めて呟いた。シバケンに鼻をすする音が聞こえないように気を付けた。 「もう切らなきゃ。また連絡するね」 「うん。お仕事頑張って」
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