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★ファウスト
宿舎に戻り、ランバートの姿を探す。辺りを探して、三階のテラスで見つけた。何を思っているのか分からない、遠い視線を外に投げている。
そっと近づき、続くガラス戸を開けた。その音に勢いよくランバートは振り向き、ファウストを見て瞳を揺らした。
「ファウスト様」
「様」という言葉に、距離を感じる。プライベートの時は「ファウスト」と呼び捨てるのに。
「すみません、もう寝ますから」
「待ってくれ!」
色のない顔で飛び出して行きそうなランバートを、ファウストは捕まえる。腕を掴み、そのまま抱き寄せた。
「…すみません、離してください」
「すまないランバート、少しだけ話をさせてくれ」
いい縋った。背中から抱きしめたから、その表情を見る事はできない。だがずっと、体に力が入ったままだ。
「すみません、少し時間を下さい。今は…」
「言い過ぎたと思っている! あの時は…お前が攫われそうになっているのを見て、頭に血が上って、それで!」
「それが、本心だったのですよ」
温度のない声音、崩れない口調。それが、拒絶だと感じた。
そっと抱きしめる腕に手が触れる。そして、力も入っていないのにそっと降ろされた。
「少しだけ、考えさせてください。お願いします」
そう言って去って行く背を追えない。全身から拒絶の空気を纏わせる相手を、どうして引き留めらるのか。
やがて、背は視界から消えてしまった。
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