すれ違う気持ち(シウス)

7/7
522人が本棚に入れています
本棚に追加
/149ページ
★ファウスト  宿舎に戻り、ランバートの姿を探す。辺りを探して、三階のテラスで見つけた。何を思っているのか分からない、遠い視線を外に投げている。  そっと近づき、続くガラス戸を開けた。その音に勢いよくランバートは振り向き、ファウストを見て瞳を揺らした。 「ファウスト様」  「様」という言葉に、距離を感じる。プライベートの時は「ファウスト」と呼び捨てるのに。 「すみません、もう寝ますから」 「待ってくれ!」  色のない顔で飛び出して行きそうなランバートを、ファウストは捕まえる。腕を掴み、そのまま抱き寄せた。 「…すみません、離してください」 「すまないランバート、少しだけ話をさせてくれ」  いい縋った。背中から抱きしめたから、その表情を見る事はできない。だがずっと、体に力が入ったままだ。 「すみません、少し時間を下さい。今は…」 「言い過ぎたと思っている! あの時は…お前が攫われそうになっているのを見て、頭に血が上って、それで!」 「それが、本心だったのですよ」  温度のない声音、崩れない口調。それが、拒絶だと感じた。  そっと抱きしめる腕に手が触れる。そして、力も入っていないのにそっと降ろされた。 「少しだけ、考えさせてください。お願いします」  そう言って去って行く背を追えない。全身から拒絶の空気を纏わせる相手を、どうして引き留めらるのか。  やがて、背は視界から消えてしまった。
/149ページ

最初のコメントを投稿しよう!