0人が本棚に入れています
本棚に追加
翌日も同じ時刻に猫は現れた。やっぱり、部屋の中をじっとのぞいている。
実は淡い期待をもって、ウエットを用意していた。湯煎で人肌に温め、小さなボウルに入れる。そのボウルを、サッシのすき間からそっと差し出した。
ガラス越しの逢瀬。猫は夢中でウエットを食べている。この付き合いなら、アレルギーも気にならない。
「名前をつけてあげなきゃね。サバトラでしょ? えーっと、サバはマッカレルだったっけ……。カレル! ちょっと素敵じゃない?」
新しい名前が気に入ったのか、カレルはガラスサッシに体をこすりつけ、ゴロゴロとノドを鳴らした。そういえば、夫の名前は馨(かおる)だった。どこかで意識しているのかもしれない。
3週間が過ぎた。カレルは、必ず7時過ぎに現れる。
「あのね、ドライを買ってきたのよ。口に合うかしら?」
新しい陶器の器にたっぷり盛り付け、サッシを開いた。ところが今日は勝手が違った。サッシが途中で支え、すき間からカレルが部屋の中に飛び込んでしまったのだ。
「キャッ!」
カレルが、わたしの肩に飛び乗る。驚いて立ち上がると、床に飛び降り、テーブルの下に逃げ込んだ。
「ごめんね、抱っこできないのよ……」
はやく追い出さないと、アレルギー症状が出てしまう。とりあえずマスクを着け、部屋の中を見回した。
ちょうど、ナデシコのドライフラワーがある。それを猫じゃらしに見立て、誘い出してみよう。
ところが、動きの鈍いわたしは、簡単にナデシコを奪われてしまう。
そんな格闘が一時間以上も続いた。
あれっ? でも、目が痒くならない。
半信半疑で、そっとマスクをずらしてみる。くしゃみが出る気配が、まったく無い。恐る恐るカレルに近づき、そっと手を伸ばす。
カレルはノドを鳴らし、わたしの手に体をこすりつけてきた。
覚悟を決め、カレルを抱き上げてみる。
やっぱりだ。何故だか分からないけど、アレルギーが治ってる……
わたしはもっと大胆に、カレルの首筋に顔を埋め、思い切り息を吸った。
これで娘のところにも行ける。ぜんぶカレルのおかげだ……
最初のコメントを投稿しよう!