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時代遅れとなったバルーンタイプのスカートの丈詰めの作業をしておりますと、ドアのベルが鳴って来客を知らせました。
「いらっしゃいませ」
見るとドアを開けていらっしゃるのは、三十前後と思しき綺麗な女性と、その方に手を引かれたポ二ーテイルがお似合いの女の子でした、年の頃は五、六歳と言ったところでしょうか。
その女の子にはどこか見覚えがありました、そう思って女性を見ると、更に脳の奥底にある記憶と合致いたしました。
「──これはこれは……お久しぶりでございますね」
私は声を掛けておりました、女性は驚いて目を見開きます。
「覚えていらっしゃるんですか? 私が来たのは二十年以上前ですよ?」
私は微笑んでお答えします。
「勿論でございます、とても印象的なお仕事でしたから。江里夏様」
私が名前を呼ぶと、とても嬉しそうに微笑んでくださいました。
それは私が仕立屋になって間もない頃引き受けた、今も忘れる事のできないお仕事でした。
そう、あの時のあなたは、今、傍らに居る女の子と、同じ年くらいでしたね。
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