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「もう、やだ!」
えっちゃん様は、店を出て行こうとします、勿論一人で、と言う事はないでしょうが。
「えっちゃん様?」
私が声を掛けると、女の子は走り出そうとしていた足を止めてくれました。
「少し、お話をよろしいですか?」
私はえっちゃん様を作業台脇のスツールに案内しました。
ご両親は少しの間、外でお待ちいただくことにします。
えっちゃん様には、よく冷えた紅茶を出してさしあげました。念の為、お待ちいただく時用にペットボトルですがお茶などのご用意はあります。
容れ物は残念ですが紙コップです。
「えっちゃん様は、ご自分用に、新しいお洋服が欲しいんですね?」
私はえっちゃん様の隣にスツールを運び、座りながら聞きました、えっちゃん様はそっぽを向いて答えます。
「べつに! 新しいのがほしいわけじゃ!」
「ふむ、お姉様のものを使うのが、嫌なのですか?」
えっちゃん様はどんどん俯いていきます。
「だって……つくえもランドセルも、おねえちゃんのでいいわねって……わたし、えらぶこともできなかったの……」
「それはお辛いですね」
「きっと、お母さんたちはわたしをうらんでるんだ……おねえちゃんが事故にあった日は、わたし、風邪ひいてねつを出してねこんでたの……だから、おねえちゃん、ひとりでこうえんへ行くってでかけて、その時……」
ぽた、と音を立てて、えっちゃん様のスカートに大きなシミができました。
「わたしがねつなんか出さなかったら、いっしょにこうえんに行ってあそんだのに。おねえちゃんひとりで行ったから事故にあって死んじゃって……お父さんもお母さんも、わたしをおねえちゃんの代わりにしたいんだ、わたしはいらなくて、おねえちゃんをそだてたいんだって思う……!」
「それは、少し違うと思いますよ」
私が言うと、えっちゃん様は私に視線を向けました、大きな瞳が潤んでいます。
「お姉様が使えなかったものをあなたに使って欲しいと思うのは、お姉様の事をいつまでも悔やまないとする気持ちの表れでしょう。 新しい物を買うのは簡単です、でもお姉様の為に買ったものも捨てられない、いつまでもそれらがそこにあればお姉様を思い出してしまう。ですからあなたに使っていただいて、お姉様や自分達の想いや、道具達の気持ちも、救ってもらいたいのではないでしょうか」
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