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「すくう……?」
「うーん、少し難しい話でしょうか。けちんぼだったり、あなたの気持ちをないがしろにするつもりはない、と言いたいのですが」
「ないがしろ……?」
「えっちゃん様の気持ちを無視する、と言う意味ですかね?」
「……ふうん」
「あなたの希望が通らなかった事は同情しますが、机もランドセルも、このお洋服も、きっとあなたに使って欲しいと思っています。二年間、誰にも使ってもらえなかった道具達は悲しんでいるでしょう。一生に一度の小学校の入学式であなたに我慢を強いるのは可哀想ですが、このお洋服に命を吹き込んではもらえませんか?」
「命?」
急にえっちゃん様の目が輝きました、お姉様の死と真逆の事に驚いたようです。
「お洋服は飾られる為にあるのではありません。このお洋服は一生に一度の晴れ舞台に華を添えるために生まれたんです。だからあなたが着て喜ばせてあげてください、その時初めてお洋服は生きるんです」
少しの間私を見つめてから、えっちゃん様は、うん、と頷きました。
「人形のお洋服も、いつまでも箱に入ってると綺麗だけど、なんか寂しそうに見えてた」
えっちゃん様の言葉に私は頷きます。
「では、この服をえっちゃん様の為に改造致しましょう」
「えっちゃん様っておかしいっ!私、江里夏って言うの!」
「江里夏様、良いお名前です」
私は江里夏様のご両親を招き入れて、採寸の様子を見ていただきました。
その時にはニコニコと朗らかに笑っていらっしゃる江里夏様に、ご両親は大層驚いていらっしゃいました。
少し布を継ぎ足すかもしれないので、その布地も選んだいただきます。
「最後に、入学祝いにこのお胸に新しいエンブレムを入れようと思うのですが、如何なさいますか?」
私が聞くと、江里夏様はきょとんとされ、ご両親は驚かれました。
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