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あれから、二十年ですか、月日の流れは早いですね。
「今日は、どうなさいましたか?」
私が聞くと、江里夏様は微笑んで紙袋から見覚えのある女児用のスーツをお出しになりました。
「──これは」
「ええ、私が小学校の入学式の時に着たものよ」
ええ、もちろん覚えております。今も鮮やかに残るイルカの刺繍を撫でてしまいました。
「とても綺麗にしてありますね」
きちんと手入れされていたのが判ります。
「衣更えの度に虫干ししてね。引っ越ししても結婚してもこれは絶対に捨てなかった」
作業台にあるスーツを、江里夏様も大事そうに撫でます。
「こんな着れもしないもの後生大事にとっておきやがってって主人もバカにしてね。宝物なのよって言うんだけど──不思議ね、あなたに会うまではなんでこんなもの大事にとってあるのよ、姉に関するものなんか捨てればいいのに、って思っていたのに。入学式が終わっても捨てられなかった、毎年春になると眺めていたわ」
よかった、江里夏様にとって、この服は心の拠り所となってくれたようです。
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