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◇◆◇◆◇
彼女と出会って、三日目。
最初は人形のように真っ白だった彼女の頬は赤みがさしていた。
本当は病気か何かで無理をして来ているんじゃないかと思っていたから、ちょっと安心した。
日毎姿を変える桜のように、彼女もまた会うたびに新しい一面を見せてくれる。
「今日、どこかにでかけるの?」
「え? でかけないよ。なんで?」
「化粧してるみたいだから」
頬だけでなく、唇もどこか薄紅色をしている。
僕より年下と思っていたけど、今日はおねえさんに見える。化粧をするだけで雰囲気が変わるから女性はおそろしい。
少しだけ寂しそうな顔を見せて、彼女は笑う。
「君に会うからだよ」
「えっ」
「おしゃれしたところも見せたくなったの」
どう? 可愛い? とすぐ近くで顔を覗き込んでくるから照れた。
ふいっと顔を背けた僕を笑い、彼女はカメラを構えてシャッターを切る。
よりによって今の僕を撮るなんて、いじわるすぎる。
「もう、順番だろ」
「今は私の番だからいいのー」
「だったら桜を撮ってよ」
「やだ。君を撮る」
しつこく僕を追いかけてくる彼女は、楽しそうに笑っている。
僕も、つられて笑う。
そんなやり取りが嬉しくて、愛おしくて。
気が付けば、彼女をカメラごと抱きしめていた。
「……どうしたの?」
「また、会いたい」
「明日も……いるよ。ここに」
「明日だけじゃなくて、ずっと。君と」
――だから、名前を教えて。
何度目かわからない懇願を、彼女は困ったような笑顔で一蹴した。
理由を聞いてもはぐらかすだけで。
なのに、一緒にいると嬉しそうに笑うし。……会いたいって、言ってくれるし。
僕はいつも、その言葉に絆されてそれ以上追及できないでいた。
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