桜の木の下で

　あの桜の木に魅せられた意味。
　彼女に出会った意味。
　彼女を、桜を撮り続けた意味。

　すべてが、この終わりに繋がる気がする。

　いつまでも彼女は100点をくれなかったけれど。
　それは、僕との時間を終わりにしたくなかったからだったのだと、思ってもいいのかな。

「君が撮ってくれた写真、頂いてもいいかな」
「そんなもので、よければ」

　もっとうまく撮りたかった。
　もっともっと、咲き誇る彼女を綺麗に残しておきたかった。

　もっと……一緒に、いたかった。

「君の目に映るこの桜は、今まで一番美しい姿だ」
「そんなこと」
「60年、この桜とともに過ごした私が言うんだ。間違いない」

　おじいさんのあたたかな手が肩に触れたと同時に、小さく床が震える。
　大きな歓声とともに窓一面に映っていた立派な枝の姿は、ひとつも見えなくなっていた。

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