(〇二)

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 幸い事件当時の記録によれば、柳川の実家は箕面市なので、東三国を引き払って所在不明だとしても、再び新御堂筋を更に北へ行けば、三十分足らずで箕面市なので、そこで家族に所在を訪ねればいいのである。  二人はワンルームマンションの一階集合ポストの二〇三号室に柳川の名前を確認し、顔を見合わせた。 「いましたな」  と、村瀬が言う。 「行こう」  霧島が促した。  二人は柳川の部屋がある二階へ向かった。  村瀬がインターフォンを鳴らしながら、 「時間的に出勤してるかもしれませんな」  と、言う。 すると、 『はい?』  と、インターフォンから不機嫌そうな声がした。 「いたね」  と、霧島が呟く。 「朝早くからすんまへん。こちら警察ですが、柳川さんはご在宅でっか?」  と、村瀬が愛想良く応える。 『警察ぅ?』  不機嫌な返事だ。 『ちょっと待って、今、開けるわ』  と、それでも声の主は対応する意思を見せた。  ドアが開き、紺のスラックスに白のカッターシャツ姿の三十年配の男が出てきた。  村瀬が警察バッジを見せながら、 「大阪府警の村瀬です。それから、こちら同じく霧島」  と、自己紹介をした。 「霧島です」  と、霧島も軽く会釈する。 「あなた、柳川圭史さん?」  そう村瀬が聞く。 「ええ、そうですけど」 「五年前に、あなたが被害に遭われた傷害事件についてお伺いしたいんですが、今、お時間よろしいでっか?」  と、村瀬が尋ねる。 「長くかからないんならいいですよ。十時半には本町に着きたいんで」 「随分と遅い出勤ですね」  と、霧島が聞く。 「昨日遅くて、今日は得意先に直行なんですよ…それより、なんですか? 今頃、五年前の事件て…」 「思い出したくないやろうけど、加害者で君の高校時代の後輩の安達咲也から、事件後、連絡があったりしましたかな?」  と、村瀬が尋ねる。 「無いですよ。あっても、無視しますけどね」 「まったく無い? 特にここ最近やけど」 「無いですって。安達がどないかしたんですか?」 「知らないんですか?」  と、霧島が聞く。 「何を?」 「今朝、安達咲也が女性を一人、人質にして吹田のコンビニに籠城したんですよ」  霧島が説明した。 「なんですって!」  柳川が驚く。 「今、テレビでも中継してますが、見てないんですか?」  と、更に霧島が聞く。
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