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「ええ…」
霧島は自分のスマホを取り出して操作すると、フルセグチューナーで籠城を中継している番組を映し、
「これです」
と、三人で見えるようにした。
カメラ映像は遠目で撮影しているのと、ブラインドが降ろされているため、店内の様子は殆ど見えない。
時々、ブラインドとブラインドの隙間部分をカメラがズームで捉えるが、やはり、ハッキリ見えないようである。
それでも、数秒間、犯人らしき人影が見えた。
首から上の部分だけだが、黒い帽子に白のマスクをした人物が、時々、首を左に動かすしぐさが映し出されたのだ。
「ああ、間違いなく安達ですね」
と、柳川が言う。
「顔がハッキリしないのに、ようわかりますね?」
と、村瀬が尋ねる。
「さっき見えた首を左に動かすしぐさですわ。あれ、安達の癖ですねん」
「なるほどねえ」
と、村瀬が納得する。
「ところで柳川さん」
と、霧島が声をかけ、
「事件の後、池上誠子さんとはどうなりましたか?」
そう質問した。
「どうと言われましても…」
「お付き合いされているとか、会ってもいないとか…」
「あの後、私も彼女も、すぐに会社を辞めてしもたんで、それっきりですね」
「辞めた? どうしてですか?」
「あんな恥ずかしいゴタゴタがあったんじゃ、会社に居づらいですよ」
「三角関係ってことですか?」
と、村瀬がズバリと聞く。
「まあね」
柳川が面白く無さそうに答える。
「ほな、あなたも今は五年前とは違う会社に?」
「そうですよ」
「それから、池上さんの現在の所在に関しても、まるっきりわからないってことですな?」
「そうですね」
続いて霧島が、
「その三角関係に関してですが…」
と、口を開いた時、
「あの、すいませんけど、そろそろ急がないといけないんですけど…」
と、柳川が遮った。
霧島が柳川の表情を観察するが、これといった変化はない。
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