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四月五日朝、大阪府警本部に到着した霧島健介(五十歳)は、出勤途中に上司である倉井警視正(五十七歳)から受けた連絡に従い、自分のデスクに向かわず、警視正の部屋に顔を出した。
霧島は大阪府警の警視で長身痩躯、口髭を生やしたダンディな雰囲気を持つ人物である。
「失礼します」
霧島は正面の椅子に座っている倉井に挨拶して、彼に近づいた。
倉井は目が大きく、禿げ上がった男性である。
「朝早くにすまんな」
倉井は声をかけながら一枚の写真を、近付いてきた霧島に渡した。
「これは?」
と、霧島が写真を手に取りながら聞く。
「見ての通り、その写真は前科者カードからのコピーだが、見覚えはないかね?」
霧島はジッと写真を眺めた。 写真の人物は二十代後半ぐらいの男性で、短髪、細面の感じで、およそ犯罪者らしからぬ優しい眼をしていた。
「いや、知りませんね」
写真から眼をあげて霧島が応える。
「名前は安達咲也、現在、三十歳。五年前に傷害罪で逮捕されている」
倉井はそこで言葉を切って、霧島の反応を見る。
しかし、霧島は首を傾げるように倉井を見た。
倉井は言葉を続ける。
「一年前に出所して、今は吹田市に在住、同市のコンビニでアルバイトをして生活している。ここまで聞いて、本当に心当たりは無いかね?」
「ありません。どうしてこの安達咲也と私に、何らかの関係が無ければいけないんですか?」
倉井は霧島の反応に期待はずれの素振りをし、
「今朝の七時半頃、吹田市金田町のコンビニで籠城事件が発生した」
と、少し間を置いて口を開いた。
急な話の展開に霧島は困惑しながら右側の壁に掛けられている時計を見た。
時刻は八時二十五分。
霧島は視線を倉井に戻す。
「その籠城しているのが安達咲也だ。奴は自分のバイト先のコンビニに籠城したんだ」
霧島は再び安達の写真を見ると、
「それと私とどう関係があるんですか?」
焦れて質問した。
「彼は君を名指しで、五年前の傷害事件の再捜査を要求しているのだよ」
「私を?」
「そうだ。君には悪いが私の判断で、現在、君の部下の楠警部に現場の指揮を任せた。現在、彼が他に数名、君の部下を連れて、吹田中央署と連携して対処に当たっている」
「では、私もすぐ現場に向かいます」
霧島が身体を動かした。
しかし、倉井がすかさず、
「それは駄目だ」
と、霧島を止める。
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