(〇一)

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 部屋に入ると、水色のパンツスーツでショートカット、薄いピンクの縁の眼鏡をした宇野朱里(二十三歳)が一人、ノートパソコンで調べ物をしていた。 「あ、管理官、お早うございます」  そう朱里が挨拶すると、 「お早う。楠たちの事は聞いてるが、他の連中は?」  と、霧島が聞いた。  「村瀬警部補は五年前に安達の事件を担当した刑事に話を聞きに行ってます。葛城警部補と佐和さんは、現在の安達の交友関係をあたっていて、氷室さんは加賀屋警部補の指示で人質について調べてます」 「そうか」 「それからこれ、問題のコンビニの電話番号です。これも加賀屋警部補からの指示で、調べておきました」  そう言って朱里は霧島にメモを渡した。  おそらく楠が、霧島と電話で話しながら、加賀屋に調べるよう身振りで指示を与えたのだろう。  さすがである。  霧島は自席につくと、デスクの受話器に手を伸ばした。 そこへドアが開き、ノーネクタイで無精髭、丸く愛嬌のある顔をした霧島より年配の村瀬正太郎(五十三歳)が、扇子片手に入って来た。 「ああ、管理官、お早うございます」 「ムラさん、朝早くからすまんね」 「いやぁ、まだ四月やゆうのにこの暑さ、たまりませんな」  村瀬はそう言って室内にある冷水器に足を向けると、 「あ、私がやります」  朱里が気を利かした。  村瀬は「すまんな」と言ってから霧島を見た。 「管理官、あの安達の要求なんですがね、ちょっと腑に落ちませんな」 「どういうことや?」  と、霧島は受話器を掴んだまま聞いた。 「五年前の傷害事件、ありゃ安達が自首しての全面自供で解決してますんや」 「それで?」 「せやのに、なんで彼は再捜査を望むんでしょうな」  朱里が霧島と村瀬に紙コップで冷水を持って来て、 「そうですね。俺は犯人じゃないから調べてくれ…って言うならわかりますけど」  と、二人にその紙コップを渡す。 「せやろ」  村瀬が同意して水を飲む。 「疑問はまだあるんや」  と、霧島が言うと、村瀬と朱里が彼を見た。  霧島が二人を交互に見る。 「私は安達を知らへんのに、なんで彼は私を知ってるのか…」 「知らない? 管理官は安達のことを知りませんのか?」  と、村瀬が言う。  朱里もキョトンとした表情をした。
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