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霧島は頷き、
「それから彼はなんで、多くの人質を取ることができたのに、それを一人だけにしたのか…」
そう言いながら電話器の時刻を見た。
「ムラさん、五年前の事件に関してはあとで聞くわ」
霧島は朱里から受け取ったメモを見て、ダイヤルボタンを押してから、スピーカーボタンも押した。
カチリと音がして、相手が出る。
『はい…』
と緊張した若い男の声がした。
「安達咲也か?」
霧島が問う。
『…あんたは?』
「君に指名された男や」
『ほな、あんたが霧島警視なんか?』
「そうや」
『本物か?』
「本物や…と言うても、声だけじゃ信用せえへんやろな」
『…だから?』
「私がそこへ顔を出す」
『駄目だ。もう聞いているやろうけど、あんたは五年前の事件を調べるんや』
「だが、私が本物の霧島かどうかの判断はどないするんや?」
『信じるわ』
「なに?」
『あんたが本物の霧島警視やて信じるわ。せやからはよ事件のことを調べるんやで。連絡は二時間おきにするわ。ほな…』
「待て! 信じる根拠はなんや? それと、なんで私を知ってるんや?」
『さあね』
そう言うと、電話は安達の方から切られた。
「今の電話…」
そう朱里が呟くと、
「それが…?」
と、霧島が受話器を戻しながら聞き返した。
「こっちもスピーカーにしてましたから、ハッキリとは言えませんけど、相手もスピーカーにしてたような気がするんです」
「そう言われると、妙に周囲の音が鮮明に聴こえてた気がしまんな」
と、村瀬が言う。
霧島は少しばかり沈黙すると、
「考えられることは、私の声を誰かに聴かせたかったことや」
そう結論づけた。
「確か、今、あのコンビニにいるのは安達以外には人質が一人だけでしたな」
と、村瀬が言う。
「そうや」
「すると、こういうことでっか…安達は人質に管理官の声を聴かせたかった…でもなんでや?」
と、村瀬は自問自答するように言う。
「声か…」
霧島が呟く。
「声といえば、安達は私の声を聞いただけで、簡単に私を信じると言いよった。それはなんでか…」
すると突然、朱里が、
「人質の女性が管理官のことを知ってる!」
と、大きな声で言った。
「そうなるわな」
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