(〇二)

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 霧島は村瀬の運転する覆面パトカーで、柳川圭史の自宅に向うことにした。  事件当時の住所は大阪市淀川区東三国だったので、車は府警本部を出ると、上町筋を北へ向い、京阪東口交差点を西へ行き、さらに天満橋の交差点を再び北へ向い、さらに東天満の交差点に出ると西へ向って国道一号線を走り、そのまま大阪の南北を繋ぐ主要道路、新御堂筋を北へ向かった。  霧島のスマホがバイブで振動した。  画面を見るとメールで、発信人は氷室冴子とある。 「氷室からや」  と、村瀬に言う。  メールのタイトルは“人質の写真”とあり、そのメールには添付ファイルがあった。  添付ファイルをタッチすると、コンビニのガラス越しに、ブレた画像で人質の横顔が写っていた。  二十代前半の若い女性だった。  よく判別はできないが、霧島の知らない顔だった。  再び霧島のスマホが震える。  氷室からの着信だ。 「私だ」 『氷室です』  と、クールで落ち着いた感じの女性の声がした。 「画像は確認した。身許はわかったんか?」 『はい、所轄の方たちと手分けして、大急ぎでなんとか突き止めました』 「それで?」 『名前は手嶋沙奈子、二十歳。この春に社会人になったばかりのようです』  名前にも聞き覚えはない。 「他には?」 『今のところはそれだけです』 「そうか…」  落胆する霧島に、 『楠警部に言われまして、手嶋さんのご家族に安達との関係も質問したのですが、何も出てきませんでした』  と、冴子が聞き落としが無かったことを報告した。 「わかった。あとは楠の指示に従ってくれ」  霧島はそう言って通話を終えた。 「えらい早う身許がわかりましたな」  と、村瀬が聞く。 「地域と時間帯やな…住宅街のコンビニに、通勤時間帯に顔を出すんは、近隣が殆どや」 「なるほど、せやからコンビニ近くの家を人海戦術で回ればすぐにわかるってことでんな」 「あるいは、テレビ中継も来とるみたいやから、そいつを見た家族がスッ飛んで来たかやな」 「それで管理官、人質に心当たりは?」 「ないよ」  そして、二人を乗せた車は東三国に到着した。  地下鉄御堂筋線東三国駅近くのワンルームマンションが、事件当時の柳川の住居ではあるが、年齢的に今でもそこに住んでいるかは疑問だった。  それでも、柳川に関してはそこから手繰るしかない。
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