忘れられない一夜の話

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 触れるだけの切ないキスがまた、今度はもう少し長く。 「気付かないと思うんですか? 先輩が俺を見る目、とても色っぽいですよ」 「そんなつもりは……」 「惚れた欲目はあると思いますが、それでも特別だって思いました。思いたかっただけ、なんて酷い事いいませんよね?」  寂しげな瞳が見つめる。  思い過ごしじゃない。俺は時々、そんな目で見ていた。受け入れられるわけがないと思いながらも、受け入れて欲しい気持ちを捨てられなかった。  だからこそ苦しんだんだ。離れようと思った。この気持ちが膨れ上がって、やがて息が出来なくなりそうだったから。  頬に触れる手が、切なそうに滑る。見つめる瞳が、揺れ動いている。 「俺は、先輩が好きです。後輩としての親愛ではなく、貴方を男と分かって、それでも」 「香坂……」 「先輩は、嫌ですか?」  嫌なわけがない、俺もそれを望んでいた。  喜びが溢れるように、俺は香坂を抱きしめて深く口づける。求めたものを手にいれたような気がして、離しがたい気持ちにかられていた。  多少酸欠になりながら、濡れた香坂の瞳を覗き込む。頬を染めた彼が、次には幸せそうに微笑んだ。 「俺も、香坂が好きだ」  ようやく、本当の気持ちで伝えた初めての言葉。  それを受けた香坂もまた、嬉しそうに笑って「俺もです」と言ってくれた。  産まれて初めて俺の想いを吐き出したこの夜を、俺は忘れる事は無いだろう。この先、何年、何十年とたっても。
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