忘れられない一夜の話

7/8
前へ
/8ページ
次へ
「俺がこんなにアピールして、独占欲出してるのに連れなくて。ちょっと自信なくなります。これでも勇気を振り絞ってるのに」 「そんなになのか? お前は友達も多いし、明るいし、顔だっていいんだからすぐに彼女くらいできそうなのにな」 「何が足りないのでしょうね? もっと積極的に迫ってみればいいんでしょうか?」 「積極的って……具体的には?」 「そうですね……例えば……」  少し考えた表情の香坂は、すぐに口元に怪しい笑みを浮かべる。  顔に触れる手、伸び上がった体、触れた唇に俺の思考は止まる。  マジマジと目を見開いたまま、一瞬触れた唇の感触を思いだして心臓が跳ねた。 「キス、とか」 「……え?」  真剣すぎる瞳がとても近くで覗き込む。ドキドキと煩い心臓の音に戸惑う。痺れるように甘く、目眩がするように誘惑される。 「鈍感な貴方に気付いてもらうには、もっと積極的にならなければいけませんか?」 「俺?」 「先輩も、俺の事気にしてるでしょ? 側にいるんですから、気付きます」  気付かれていた。驚いて後ろめたくて隠したいのに、ぶつけられる驚きが大きすぎて反応できない。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加