16人が本棚に入れています
本棚に追加
――人は変わる。
環境も。世界も。全てのものは刻々と変わっていく。
でも、古いものは淘汰されるんじゃない。
たとえ形を失うことになっても、何処かに必ず残っているのだ。残り続けるのだ。
あの日、やはり私はお父さんの元から離れなくてよかったと思う。
最期までお父さんの笑顔に寄り添うことができた。それはお父さんのためでもあったが、自分のためでもあった。私のために頑張ってくれたお父さんに、最期の最期まで感謝の気持ちを伝えたかった。
私も子を持ち、親となった。あらゆることに忙殺され、お父さんのことを思い出す日が少なくなっていく。
たしかに、人や環境は変化していく。でもお父さんのことも、思い出の桜も、過去のものとして捨てていくわけじゃない。
私の中に、ずっと残っている。
お父さんの笑顔も、あの桜吹雪も、私を暖かく見守っていてくれる。だから私は変わることを恐れず、前に進んでいくことができるのだと思う。
あの日々のことを、私は今でも忘れない。
そして、これからも。
私は春華の手を強く握ると、良樹の来る駅へと足早に進んでいった。
最初のコメントを投稿しよう!