変わりゆくもの

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   院内もまた廃墟のように誰もおらず、蛍光灯の切れた玄関だけが私を出迎えた。  カーテンが閉まったままの受付を通り過ぎ、エレベーターに乗り込む。激しい振動とともに三階へ到着すると、目の前には囚人でも閉じ込めているかのような頑丈なドアがあった。常に鍵が掛けられており、中からじゃないと開けられない仕組みだ。インターホンを押し無愛想な職員がやってくるまでの間、私の頭の中にはいつも〝転院〟という言葉が()ぎる。  そしていつも、フロアに入ったところでようやく、ここは人が生きることのできる場所だったと思い出すのだ。  でもやはりここは無機質で、どこか虚しい世界だった。表情の無い職員たち。薄暗く古い廊下。何度来ても私は空恐ろしい気持ちになり、心の中で震えてしまう。  鍵を開けた職員に連れられ、いつものようにナースステーションで面会のバッチを受け取る。「ごゆっくり」という抑揚の無い言葉を背に受けつつ、突き当たりの角部屋へ。甘ったるい匂いのする四人部屋の病室。  窓際のベッドに、お父さんはいた。 「お父さん、久しぶり」  そう声を掛けると、お父さんは目だけをこちらに向ける。そしていつもの穏やかな笑顔を浮かべた。  この果ての果ての世界でも、お父さんが微笑んでいてくれることに私はほっとする。 「……久し、ぶり」  左半身が麻痺しているお父さんは、喋り辛そうにゆっくりと言葉を紡ぐ。  
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