変わりゆくもの

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   数年に渡り何度目かの脳梗塞を起こしたお父さんは、寝たきりとなっていた。  脳の血管はもうボロボロだ。その理由は、蒸発した〝元妻〟に代わって一人で仕事と子育てに帆走した結果なんじゃないかと思っている。  まだ六十代の若さで、内臓も元気。余命を言い渡されたわけでもない。  だけれど。だからこそなのか。  私はつらくて、お父さんにできる限りのことをしてあげたいと思っている。 「……そうだ。言ったっけ? 新しくできた第二駅ビルのオープン、明日なんだって」 「そうか……早い、もんだなあ」 「ね。工事始めたのって四年前くらいだったかな? 良樹と明日行くから、写真撮ってくるね」  お見舞いに来ると、いつも主に私が話を振った。  時事ネタや自分の身の回りの話、お父さんの好きな相撲の話など。話題は何でもよかった。今日もほとんど一人漫談のような私の話を、お父さんは少しの相槌を打ちながら嬉しそうに聞いていた。  付けっ放しになっているテレビを見ると、天気予報士が桜前線の話をしていた。  この季節だと、桜の話題もお決まりだ。 「そうだ! ご要望の桜の写真、撮ってきたよ」  私は今思い出した演技をしながら、デジカメの画面をお父さんに向ける。お父さんはそれを食入るように見つめた。 「綺麗でしょ? 今満開でさ、通りすがりの人がみんな写真撮ってるよ」  お父さんはしばらくの間、それを凝視する。  そしてふっと息を吐くと、答えた。 「……ああ。ありがとう。綺麗だなあ」  
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