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ズバズバ物を言ってくるが、悪い奴ではなさそうだ。速人は家まで送ってもらうことにした。家までの道のりで、男が速人と同い年で名前がカイトだということ等、一通り自己紹介をしてもらった。彼の気さくな話し方に、速人もつられて口調が崩れていく。ふたりの間には絶えず白い息が流れた。会話が弾んだせいか、アパートまでの距離がいつもより短く感じた。
アパートのエントランスの前で、速人は「送ってくれてありがとう」と礼を言った。
「コーヒーでも飲んでいく?」
もう少し話がしたいという気持ちから、そんな言葉が出た。だが、失敗したと後悔する。この台詞、女が男を部屋に誘うときの常套句だ。女々しいことを言った気がして、自己嫌悪に陥った。
「遠慮しとく。お前、ルームメイトと同居してるって言ってたけど、相手、男だろ?」
「そうだけど」
「同居じゃなくて同棲だろ。お前の雰囲気で分かるよ」
雰囲気でゲイだと分かるなんて、滅茶苦茶なことを言う奴だと思った。自分はクネクネした動きもしないし、内股歩きもしない。小指も立てないし、ファッションだってオーソドックスだ。カラシ色のダッフルコート、チェックのネルシャツにカーディガン、ジーンズ。――至ってふつうだ。一方カイトはやけに軽装で、見ているこちらが寒くなる。黒いカットソーと、ジーンズだけ。二月中旬の凍える夜にはあり得ない格好だ。筋肉のお陰で寒さを感じないのだろうか。
「俺、ゲイっぽい仕草でもしてる?」
「ついてるんだよ、ここ。キスマーク。相当吸わないとできない代物」
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