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「佳恵さん、不倫をしたいんですか?」
ちひろがため息交じりに訊ねる。
別に、と佳恵が首を振る。
「私はセックスをしたいだけよ」
あーっ、とちひろが声をあげる。
「またNGワードを言いましたね」
「なによ、その英語禁止ゴルフみたいなノリは。じゃあ、どう言えばいいのよ。××××とでも言えば……むぐぐっ」
さすがに志保が手で口をふさぐ。
その腕を振りほどき、ぷは、と佳恵が息を吐く。
「これはもう罰金とりましょう」
腕組みをしたちひろが冷たく宣言すると、志保もうなずいた。
「セックスって言ったら、一人分のランチをおごるってどう?」
賛成です、と裕子が小さく右肘を上げる。
わかったわよ、と佳恵が渋々受け入れる。
「ようは何が言いたいかっていうとね、女の性欲は40代がピークなの。で、男の性欲のピークは20代。年をとると、男の性欲は落ちていくのに、女の性欲はどんどん上がっていく。このカーブが重ならないのが問題なのよ。私はしたいのに旦那は枯れていってるんだから」
「でも、旦那さん、浮気してるんですよね? 前に店のコに手をつけたって……」
佳恵の夫は40代の後半で佳恵より10歳は年上だ。市内で美容院チェーンを経営している。現在三店舗。ネイルサロンなどにも事業を広げようとしている。見た目はサーファーのようだが、やり手らしい。ただ女癖が悪い。
「妻以外の若い女だとヤレるわけよ」
はあ、と佳恵がため息交じりに首を振った。
「いいわよね、志保さんも、裕子さんも、旦那があんなに若くてかっこいいんだから……ねえ、ウチの夫と〝交換〟してみない?」
志保と裕子の顔がぎくっと強張った。すでに両組の夫婦の間でスワッピング関係は解消していたが、〝鍵遊び〟をしたり、箱根の温泉旅館に旅行したりしている。
佳恵はちひろに目を向けた。
「ちひろさんのところの旦那さんも、ちょっとチャラい感じはするけど、モテそうよね。お仕事はIT系だっけ? 浮気は大丈夫?」
「まあ、今のところは……。見抜くコツを教えてくださいよ」
「任せなさい。私は興信所並みのプロよ。いい? 旦那が、友達の結婚式に出るため、地元に帰るって言ったら注意しなさい。それ、浮気相手とのお泊り旅行の可能性があるから。ウチの旦那なんて、別の結婚式の引き出物をとっておいて、それをしれっと持ち帰るからね」
「はあ……敵もさるものですねえ」
「あと、泊まりでのマラソン大会も怪しいわよ。実際、ランニング系のサークルで不倫をしている人ってすごく多いんだから。なーにがスポーツマンよねえ」
佳恵の目がいやらしそうに細められる。
「ちひろさんの旦那さん、たしかまだ27、8よね? まだまだセックスはしたい盛りでしょ? 毎晩求められて大変ってカンジ?」
佳恵以外の全員ががくっと首をうなだれさせる。
志保が弱々しい声で告げた。
「……佳恵さん、ランチ一回おごりで」
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